音楽知覚認知研究会の歴史
このページでは、本学会の前身となった「音楽知覚認知研究会」について、創立の経緯や例会の記録等を掲載しています。本ページの文章を作成くださったのは、大串健吾先生です。(ページ作成 2011年5月)
1.創立の目的
音楽の知覚認知研究は1980年以降、非常に関心が高まってきた。しかし研究者の出身学部は、文学部、理学部、工学部、音楽学部、医学部などさまざまで、また所属学会も多岐にわたっている。これらの研究者が一堂に会して研究発表をしたり討論を行う機関として学際的な研究会を創立する。
また1989年に京都で開催される主催機関としての役割を果たすことも目的の一つである。
2.創立総会
1) 東京会場
日時 1988年3月25日 13:30~16:30(創立総会および記念講演会) 17:00~19:30(懇親会)
場所 NHK青山荘
参加者 記念講演会108人、懇親会65人
記念講演
・大串健吾(NHK放送技術研究所):日本音楽知覚認知研究会の趣旨説明
・梅本尭夫(甲南女子大学):音楽における知覚と認知
・難波精一郎(大阪大学):音楽演奏音の時々刻々の印象の測定
・Roy D. Patterson(MRC Applied Psychology Unit, Cambridge, England):
Spiral Periodicity Detection and the Form of Western Musical Scales
・千住真理子(ヴァイオリニスト):私の音楽演奏と研究
2) 京都会場
日時 1988年4月7日 14:00~17:00(記念講演会) 17:00~19:30(懇親会)
場所 京都市立芸術大学講堂 京都エミナース
参加者 記念講演会75人、懇親会53人
記念行事
・大串健吾(京都市立芸術大学):日本音楽知覚認知研究会の趣旨説明
・田口友康(甲南大学):音楽テンポと緩急法
・演奏 ドップラー作曲:ハンガリー田園幻想曲
フルート:富久田治彦 ピアノ:山根亜紀(京都市立芸術大学)
・大串健吾(京都市立芸術大学):演奏者の意図と聴き手の反応
・宮崎謙一(新潟大学):音楽知覚認知のテープデモンストレーション
3.役員
3月25日の創立総会において、会則および役員が承認された。
- 会長:
- 梅本尭夫
- 常任委員:
- 難波精一郎、大串健吾、小谷津孝明、寺西立年、波多野誼余夫、井口征士、佐藤允彦
- 幹事:
- 阿部純一、佐々木隆之、宮崎謙一、大浦容子、宮坂栄一、小坂直敏、平賀 譲、重野 純、星野悦子、
村尾忠廣、桑野園子、中山一郎、津崎 実、菅 千索、古矢千雪、中島祥好 - 事務局:
- 京都市立芸術大学大串研究室
4.例会記録
第1回例会 1988.9.10 ATR視聴覚機構研究所 発表4件(村尾、津崎、大和、柏野)
- 村尾忠廣(愛知教育大学):
- ISMEリサーチセミナー・メルボルン大会での発表を終えて
- 津崎 実(ATR視聴覚機構研究所):
- 音楽と認知科学のシンポジウム参加報告
- 大和 誠(ローランド):
- 心理学実験システムにおけるMIDIの可能性について -プログラミングのポイント-
- 柏野牧夫(東京大学):
- 心理学実験システムにおけるMIDIの実例 -Turbo PASCALを用いて-
第2回例会 1988.12.3 慶応義塾大学三田図書館地下1階AVホール
- 星野悦子(上野学園短期大学):
- 音楽の知覚認知研究をめぐって -McAdamsとSerafine-
- 安藤繁雄(ヤマハ応用研究所):
- 楽器音の分析・合成とその評価
- 深町 純(音楽家):
- 文化としての音楽の認知
第3回例会 1989.7.29 京都エミナース
- 大串健吾(京都市立芸術大学):
- 第1回音楽知覚認知国際会議の進捗状況について
- 津崎 実(ATR視聴覚機構研究所):
- 聴覚心理学CD(アメリカ音響学会編)のデモンストレーション
- 梅本尭夫(甲南女子大学):
- 最近の音楽心理学の動向
第4回例会 1989.11.23 日本イタリア京都会館
- 桑原尚子・梅本尭夫(甲南女子大学):
- 音程感の研究 -階名法による音程感テストの作成とその考察-
- 長谷川泰子(同志社女子大学)・梅本尭夫(甲南女子大学):
- 音色と旋律の適合性
- 倉片憲治(大阪大学):
- 邦楽における音の長さの判断と拍子との関係 -筝曲「六段の調べ」を例にとって-
- 谷口高士(京都大学):
- 音楽と単語認知
- 羽藤 律・大串健吾(京都市立芸術大学):
- 音楽的ピッチの知覚
- 三雲真理子・梅本尭夫(甲南女子大学):
- 調性感の発達 -音程のずれの認知テストの作成-
- 森下修次(京都市立芸術大学):
- 音価の比とアクセントの異なる付点リズムの知覚
- 菅 千索(和歌山大学):
- 多次元尺度法による演奏者の違いの分析
第5回例会 1990.6.30 東京大学本郷キャンパス
- 武者利光(東京工業大学):
- 音楽と1/fゆらぎ
- 大浦容子(新潟大学):
- Reduced pitch patternからの旋律の再構成:旋律記憶モデルの検討
- 貫 行子(筑波大学):
- 音楽と情動と脳波
第6回例会 1990.11.23 日本イタリア京都会館
- 梅本堯夫・岩吹由美子(甲南女子大学):
- 旋律化の発達について
- 谷口高士・徳丸裕美子(京都大学):
- 旋律の輪郭認知における両耳分離聴実験
- 下泉祥子・織田知亜(京都女子大学):
- 音楽の情動効果について
- 川村真裕子・大串健吾(京都市立芸術大学):
- 調性と色彩感
- 星野悦子(上野学園大学):
- 各種旋法メロディと色彩感
- 末岡智子・大串健吾(京都市立芸術大学):
- ピアノ演奏の評価とアゴーギク
- 中村 均:(国立特殊教育総合研究所):
- オクターブの類似性(序報)
- 梅本堯夫(甲南女子大学)・徳丸智子(京都大学):
- 音程判断のカテゴリー性
- 梅本堯夫(甲南女子大学):
- ショパン音楽院主催による音楽心理学国際セミナーの報告
第7回例会 1991.5.25 新潟大学教養部
- 梅本堯夫(甲南女子大学):
- ヨーロッパの音楽事情(音楽心理学セミナー、ワルシャワ)
- 田口友康(甲南大学)・大串健吾・大前 努・山崎広子・真木ゆき(京都市立芸術大学):
- 計算演奏の主観評価 -ショパンのワルツの一節による実験-
- 古矢千雪(広島文化女子短期大学):
- ある精神科ケアにおける音楽療法の実施に至る経過と実際
- 大串健吾(京都市立芸術大学)・羽藤 律(横浜国立大学):
- 音調性知覚の周波数上限とその生理学的対応
- 山田真司・武田 寛(大阪芸術大学):
- 演奏者の時間的表現にみる独自性に関する心理学的検討
- 小川容子(立教女学院短期大学):
- 各種旋法(長調・短調・陰旋法・陽旋法)メロディーに対する再認
- 宮川 泉・水戸博道・宮崎謙一(新潟大学):
- 絶対音感保有者と非保有者によるメロディーの異動判断
- 内田照久(名古屋大学):
- 絶対音感保有者における移調メロディの認知過程について
第8回例会 1991.11.23 日本イタリア京都会館
- 三雲真理子(甲南女子大学):
- Tapping Strategyによるメロディー音高の符号化
- 小川容子(立教女学院短期大学):
- 各種旋法(長・短・陰・陽音階)メロディーに対する再認 その2
- 藤井明子・大串健吾(京都市立芸術大学):
- 水琴窟の音の高さと音色の分析
- 稲田雅美(同志社女子大学):
- 痴呆性老人における音楽療法
- 星野悦子(上野学園大学):
- 伝統音楽の嗜好について
- 梅本堯夫・片山僚子(甲南女子大学):
- 旋律の熟知性と逸脱音の認知
- 難波精一郎・桑野園子・山崎晃男・西山慶子(大阪大学):
- 音の時間的重畳とレガート感の関係
- 大串健吾(京都市立芸術大学):
- 第25回国際心理学会における音楽心理学シンポジウムについて
第9回例会 1992.5.16 上野学園大学
- 水戸博道・津畑佳子・宮崎謙一(新潟大学):
- 絶対音感保有者と非保有者による移調されたメロディーの再認
- 阿部純一・吉野 巌・吉地 淳(北海道大学):
- メロディ認知における知覚的体制化の過程について -そのモデル化への試論-
- 梅本堯夫・中野みゆき(甲南女子大学)・辻 斉(京都大学):
- 旋律に加えられた各種変換操作の重みは等価ではない
- 青柳孝洋:
- 簡単なリズム譜の演奏とガブリエルソンのSYVAR仮説
- 古野芳毅・大浦容子・水戸博道(新潟大学):
- ピアノ初見視奏におけるリズムの認知
- 大村清一郎・阿部純一(北海道大学):
- “拍(beat)”の把握への音高情報の関わり
第10回例会 1992.11.23 日本イタリア京都会館
- 倉片憲治・桑野園子・難波精一郎(大阪大学):
- “粒の揃った”ピアノ演奏とはどのようなものか? -演奏音の強さの分析-
- 田口友康(甲南大学)・大串健吾(京都市立芸術大学)・末岡智子(ウィーン国立芸術大学):
- ピアノ演奏におけるぺダリングの個人差
- 大村清一郎・阿部純一(北海道大学):
- “拍(beat)”の把握への音高情報の関わり(その2)
- 小谷秀行:
- 倍音列(Overtone Family)による旋律のイメージの視覚的・数量的解析
- 宮崎謙一(新潟大学):
- 作曲家の音楽様式の認知
- 菅 千索・池町尚敏(和歌山大学):
- 大脳半球の機能差に及ぼす音楽聴取の効果
- 小川容子(立教女学院短期大学):
- 旋律想起過程の質的分析
- 梅本尭夫・高原志保(甲南女子大学):
- 旋律の表現に及ぼす高さテンポ及び調の影響
- 古矢千雪(広島文化女子短期大学):
- 共感覚とイメージに関する一研究(2)
臨時例会(日本音響学会音楽音響研究会と共催) 1993.5.29 京都市立芸術大学
- 武村美穂子・大串健吾(京都市立芸術大学):
- フルートの音色の演奏者による評価の比較
- 鈴木英雄(小野測器):
- ピアノのタッチと音質について
- パネル討論会 「ピアノの音色はタッチによって変化するか」
- 司会:
- 吉川 茂(防衛庁技術研究本部第5研究所)
- パネリスト:
- 北村音一(大阪芸術大学)・白砂昭一(国立音楽大学)・中村勲(帝京技術科学大学)・ 難波精一郎(大阪大学)・西 勇夫(京都教育大学)・松浦豊明(ピアニスト)
第11回例会 1993.6.12 愛知芸術文化センター
- 宮崎謙一・水戸博道(新潟大学):
- 暗譜した曲における長期記憶 -絶対音感保有者の場合について-
- 田中吉史(東京都立大学):
- 音程の類の認知について
- 佐久間真理・大串健吾(京都市立芸術大学):
- 打楽器演奏における演奏者の意図の伝達
- 吉野 巌・阿部純一(北海道大学):
- 調認定過程の分析とモデル化について
- 村尾忠廣(愛知教育大学)・小川容子(ヤマハ音楽振興会音楽研究所)・梅本堯夫(甲南女子大学):
- ラウンドテーブル「ピッチとその認知における視覚イメージ化の問題」
第12回例会 1993.11.27 甲南女子大学
- 山崎晃男・難波精一郎・桑野園子(大阪大学):
- 音の重なりと音色の関係
- 山田真司・安東泰宏(大阪芸術大学):
- 等間隔タッピングを制御する機構
- 小川容子(立教女学院短期大学):
- 旋律認知スキーマの学習過程
- 三雲真理子(甲南女子大学・日本学術振興会):
- 音高符号化における空間的イメージ
- 河本若子・梅本堯夫(甲南女子大学):
- 自由歌唱における歌声の音の高さ
- 林田明子・大串健吾(京都市立芸術大学):
- 純音と複合音による和音の知覚 -協和感覚の検討-
- 菅 千索・渡辺久修(和歌山大学):
- 和音の類似性判断に及ぼす音高と長短調の影響について
-音楽大学生と一般大学生の比較- - 谷口高士(大阪学院短期大学):
- 音楽作品の感情価の測定 -形容詞尺度の選定-
- 田中吉史(東京都立大学):
- 音程の類の認知について(2) -分類学習による検討-
第13回例会 1994.6.18 北海道大学
- 小川容子(ヤマハ音楽振興会)・宮崎謙一(新潟大学):
- 子どもの絶対音感獲得過程
- 大串健吾(京都市立芸術大学):
- さまざまな音律による長音階演奏の主観的評価と分析
- 星野悦子(上野学園大学短期大学部):
- 歌の記憶について
- 大槻克也・田口友康(甲南大学)・山崎晃男・桑野園子・難波精一郎(大阪大学):
- ピアノ音の切れ方とその印象評価
- 宮崎謙一(新潟大学):
- 音の錯覚 - Sound Demonstrations
- 田口友康・鈴木直哉(甲南大学):
- ルンバにおけるクラベスの打音リズム
- 岡田顕宏(北海道大学):
- 調の判断に対するリズム構造の影響
- 後藤靖宏(北海道大学):
- 拍(beat)と拍子(meter)の認知過程について
- 大村清一郎(北海道大学):
- リズム的体制化の構造性について
第14回例会 1994.11.12 京都市立芸術大学大学会館
- 大村清一郎(北海道大学):
- 拍と拍子の解釈について
- 後藤靖宏・阿部純一(北海道大学):
- “リズム的体制化”の過程のモデル化
- 吉野 巌・阿部純一(北海道大学):
- “調性的体制化”の過程のモデル化
- 村尾忠廣(愛知教育大学):
- 作品構造から構造認知の音楽理論へ
-Schenker, Meyer, Jackendoff そしてNarmourの音楽理論を展望する- - 竹内好弘(京都府立亀岡高校):
- グループ構造を明示する演奏変数の研究(Ⅰ)
-MozartのK.331ソナタの二つのエディションをめぐって- - 荒川恵子(大阪大学):
- 20世紀後半の声楽の演奏様式 -シューベルト「魔笛」のテンポに関する定量的分析-
注:1995年より日本音楽知覚認知研究会は日本音楽知覚認知学会となり、第1回は九州芸術工科大学にて5月27~28日に開催された。
5.研究会会報の発行
年2回の会報の発行を行い、例会や研究会活動の予告、例会予稿、その他の情報交換の場とした。編集、印刷、会員への送付等の作業は、主として事務局であった京都市立芸大の大串研究室で行った。1-5号は森下修次が、6-10号は菅 千索が、11号は菅 千索と谷口高士が編集に加わった。
1995年には、研究会が学会となったので、研究会会報は学会会報となった。12号は大阪大学の学会事務局(難波精一郎、桑野園子)が行った。13-14号は再び学会事務局となった京都市立芸大で大串健吾、森下修次、奥宮陽子が編集作業等を行い、その後は学会誌の会告欄を利用することとし、会報は14号をもって終了とした。
発行日 | 主な内容 | |
1号 | 1988.7.20 | 日本音楽知覚・認知研究会創立について |
2号 | 1989.3.25 | 第1回ICMPC開催予告、会員紹介 |
3号 | 1989.7.15 | 第1回ICMPC講演題目、新会員紹介 |
4号 | 1990.4.20 | 第1回ICMPC終了報告 |
5号 | 1990.10.22 | 例会報告、例会予告 |
6号 | 1991.10.1 | 研究会の今後の運営について |
7号 | 1992.2.5 | 最近の音楽心理学の研究動向、第2回ICMPCプログラム |
8号 | 1992.7.10 | 第2回ICMPC参加報告 |
9号 | 1993.5.1 | 第3回ICMPC予告 |
10号 | 1993.12.1 | 音楽心理学の目覚しい発展、外国留学報告 |
11号 | 1994.7.20 | 第2回ICMPC報告(J.London)、第3回ICMPC日本人発表内容 |
12号 | 1995.5. | 第3回ICMPC報告 |
13号 | 1997.6.27 | 新旧役員幹事挨拶、第4回ICMPC発表要約 |
14号 | 1998.2.20 | 研究発表会参加報告、シンポジウム講演要旨 |