2002年(平成15年)秋季研究発表会

日本音楽知覚認知学会
2002年度秋期研究発表会 プログラム

2002年10月23日更新

◎は選奨候補者です(発表される方はご確認ください。)
1件あたり、発表20分、質疑応答4分、交代1分を予定しています。


第一日目(11月23日(土))

11月23日(土) 12:45-13:10
メロディ・詩・歌の聴取と意味構造の比較~詩は歌われて詞になるのか~
星野悦子(上野学園大学国際文化学部)
歌の聴取印象は,歌を構成する詞とメロディに主に起因すると思われるが,両者の関係にはなぞが多 い。今回はそうした歌の構成因であるメロディ,詩,そして歌自体のそれぞれを別個の刺激群として聴取し,SD法から因子分析をおこない,3者の潜在的な意 味構造を抽出して比較する。さらに,詩,メロディそのものの聴取印象は歌われると変容するのか(i.e.詩から詞へ?)どうかについても検討する。

11月23日(土) 13:10-13:35 
歌の記憶: 歌詞と旋律との間の非対称な相互作用
◎中田智子(北海道大学大学院文学研究科)
阿部純一(北海道大学大学院文学研究科)
歌は歌詞と旋律という二つの要素から成るが,歌の歌詞と旋律はそれぞれ独立に記憶されるわけではないようである.本研究は,歌詞の記憶と旋律の記憶との間の非対称な相互作用についてより詳しく検討した.

11月23日(土) 13:35-14:00 
The potency of “musical” features in maternal speech to infants
◎中田隆行 (長崎純心大学)
Sandra E. Trehub (University of Toronto at Mississauga)
We measured acoustic features of maternal speech from two, 2-min interactions with their 6-month-old infants, one involving unrestricted maternal touch, the other with no touch permitted. In the absence of touch, maternal speech to infants was more music-like and emotive. Specifically, mothers’ speech was higher pitched in no-touch (M=359.93 Hz, SD=39.34) than in touch episodes (M= 318.97 Hz, SD =46.48), t(16) = 4.42, p < .001. Moreover, maternal pitch range was greater in no-touch (M = 96.92 Hz, SD = 14.85) than in touch episodes (M = 83.97 Hz, SD = 25.43), t(16) =2.66, p < .025. The potency of maternal pitch level was evident in the positive correlation between increased maternal pitch from “touch” to “no-touch” episodes and infants increased visual attention to mother (r = .544, p <.025).

——————-<休憩 14:00-14:15>——————-

11月23日(土) 14:15-14:40
言語の違いが歌曲の印象に与える影響ーシューベルト作曲「野ばら」を通して-
◎井戸和秀(岡山大学)
矢内淑子(旭川荘厚生専門学院)
「野ばら」をドイツ語や日本語で歌うことは多い。しかし,その言語の違いが,どのような印象を聴く人に与えているかについては,あまり論及されていない。そこで,シューベルト作曲の「野ばら」(ドイツ語と日本語)を事例曲として,言語の違いによる印象を調査した。

11月23日(土) 14:40-15:05
旋律の再認記憶における音程出現頻度の影響
◎奥宮陽子(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科)
344曲の旋律を対象に,用いられる音程の出現頻度を調べた。この出現頻度のデータに基づき,頻出音程からなる旋律と稀出音程からなる旋律の再認成績を調べた。その結果,音程出現頻度が再認成績に影響を及ぼす場合があることが示された。

11月23日(土) 15:05-15:30
メロディ聴取時の注意が記憶に与える影響
◎吉野 巌(北海道教育大学札幌校)
メロディ聴取時に注意方向付け課題で注意を向ける属性を操作する(音高,音色,調,拍子,好嫌など)ことにより偶発学習を行った後,再認課題を行った。結果は処理水準理論との関連で議論される。

——————-<休憩 15:30-15:45>——————-

11月23日(土) 15:45-16:10
音高判断に及ぼす基音と倍音の影響
◎松井淑恵(京都市立芸術大学大学院音楽研究科)
大串健吾(京都市立芸術大学)
複合音の音高判断をする場合,基音と倍音のどちらからより影響をうけるか音楽経験や刺激音の長さの違いに注目して調査を行った。実験には基音および低次の倍音の欠けた音を用いた。

11月23日(土) 16:10-16:35
女性の歌声における声種の類別について-音響分析と心理実験-
◎山本福久(京都市立芸術大学大学院音楽研究科声楽専攻2年次)
大串健吾(京都市立芸術大学大学院)
ソプラノとメゾ・ソプラノの歌手17人の歌声を収録し,声質に関する聴取実験とスペクトル分析を行い,その対応関係を調べた。聴取実験では,ソプラノとメゾ・ソプラノはかなり明確に類別された。また,これらの結果はスペクトル分析からかなりよく説明することができた。

11月23日(土) 16:35-17:00 
「コタニカーブ」による音楽の視覚的分析
小谷秀行(中国電力株式会社流通事業本部)
1オクターブの12音を,それぞれ何調に属するかで特徴づけた「コタニカーブ」により,音楽を分析する方法を提案する。本方法により,音楽を視覚的・理論的により分かりやすく理解することが可能になる。

17:00より(準備の後)特別賞、論文賞、研究選奨の贈呈式
18:00より懇親会


第二日目(11月24日(日))

11月24日(日) 9:10-9:35
特定の音程と和音に対する知覚認知の傾向について
ー脳波の反応特性についての検討ー
廣瀬百合子(一橋大学大学院)
山本佐代子(お茶の水女子大学大学院)
佐川泰広(帝京平成大学)
武田剛(帝京平成大学大学院)
武田昌一(帝京平成大学大学院)
武者利光(脳機能研究所/帝京平成大学・情報)
本研究は音楽の「意味表現」は,特定の音程や和音に依存しているのではないかと考え,脳波計測実験によって検討したものである。音聴取時の脳波のうち,一定時間を区切って時系列的に解析を行い,その傾向を求めた。

11月24日(日) 9:35-10:00
音楽リズムの同調と引き込み現象(1)
吉田友敬(成安造形大学・非常勤講師)
山本佐代子(お茶の水女子大学大学院博士課程)
廣瀬百合子(一橋大学大学院博士課程)
武田昌一(帝京平成大学情報学部)
音楽リズムの同調に非線形引き込み現象の概念を適用する。その際,ゆらぎや同調の局所性に注目しフレーズ構造と関連付ける。理論的考察に加え,リズム実験による演奏データおよび生体情報のデータを検討する。

11月24日(日) 10:00-10:25
音色評価時の脳活動の研究
◎川上 央(日本大学芸術学部音楽学科)
音楽経験者を対象に楽器音,電子音をそれぞれ6音色聴取させ,各音色について評価させた。各音色聴 取時の脳波を測定したところ,左右下前頭部位(F7・F8),左後側頭部位(T5)に有意なβパワ増強がみられた。このことより,音色評価時には左後側頭 部位による分析的な判断を行っていることが分かった。

——————-<休憩 10:25-10:40>——————-

11月24日(日) 10:40-11:05
純音の周波数およびラウドネスレベルが人間の生理的・心理的反応に及ぼす影響
-心拍R-R間隔変動スペクトル解析による検討-
◎高田正幸(九州芸術工科大学音響設計学科)
後藤留美(九州芸術工科大学音響設計学科)
内部敦子(九州芸術工科大学音響設計学科)
岩宮眞一郎(九州芸術工科大学音響設計学科)
堅田秀生,恩田能成(キヤノン株式会社)
純音の周波数とラウドネスレベルが人間の生理的反応および心理的反応に及ぼす影響を,心拍R-R間隔変動パワースペクトルから得られる自律神経系評価指標と主観評価により調べる実験を行った。刺激の物理量,主観評価および自律神経系評価指標の関連を考察する。

11月24日(日) 11:05-11:30
Musician/nonmusicianでの楽曲の声部の聴き分けにお ける
脳内活性化部位の違いについて-PETによる研究-
佐藤正之(三重大学神経内科/日赤医療センター神経内科)
武田克彦(日赤医療センター神経内科)
長田 乾(秋田県立脳血管研究センター神経内科)
畑澤 順(秋田県立脳血管研究センター放射線科)
葛原茂樹(三重大学神経内科)
われわれはmusicianが楽曲の声部を聴き分ける際に活性化する脳部位を positronemission tomography(PET)で調べ報告した(Satoh 2001).その結果musicianがアルトパートのみを集中して聞き分ける際には,和音全体を聴いたときと比べて,上頭頂小葉,precuneus, 運動前野,前頭葉眼窩面が両側性に活性化した.今回,同様の課題をnonmusicanを対象に行ったところ,両側上頭頂小葉,後頭葉外側面,右 precuneusが活性化した.Musicianでみられた両側運動前野,前頭葉眼窩面,左precuneusの活性化はみられなかった.今回の研究に より,楽曲の声部を聴き分ける際に活性化する脳の領域はmusicanとnonmusicianとでは異なることが明らかとなった.

11月24日(日) 11:30-11:55
アルツハイマー病患者における音楽療法の効果~内分泌学的研究~
◎豊島久美子(奈良教育大学教育学部)
 福井 一(奈良教育大学教育学部)
 荒井敦子(奈良市音楽療法推進室)
山下政子(奈良市音楽療法推進室)
アルツハイマー病(AD) 患者を被験者として,内分泌(テストステロン,コルチゾル)を指標に音楽療法(MT)の効果を調べるため実験を行った。いずれのホルモンもMTセッション時の変動がもっとも顕著で。MTが代替療法となりうる可能性を示す結果となった。

——————-<ランチ 11:55-13:10>——————-

11月24日(日) 13:10-13:35
描画に見られる音楽非専攻学生のリズム聴取
小川容子(鳥取大学)
◎佐々木唯(鳥取大学大学院)
本研究は,J. Bamberger及びR.Upitisのおこなったリズム描画実験の追試である。鳥取大学の音楽専攻学生及び非音楽専攻学生を対象に,実験者が提示した 簡単なリズムの模倣と絵による表象(描画)を課題とした。Bambergerが示した「figural(形態的な)」描画と「metric(拍節的な)」 描画スタイルが,各被験者のリズム認知とどのように関わっているのか,拍子及びリズム構造の違いと関連づけて検討した。

11月24日(日) 13:35-14:00
画像中の円盤の運きと音の変化の同期ー枠組みの影響
難波精一郎(宝塚造形芸術大学)
林 勇気(宝塚造形芸術大学)
画像の中の円盤が運動し停止する瞬間と円盤に合わせて提示されている音が終結する瞬間との同期の判断に与える枠組みの影響について実験的に検討した。明瞭な枠組みの存在が円盤の終結判断の手がかりになることを示した。

11月24日(日) 14:00-14:25
音楽再生時の音場の違いがBGMの心理効果に与える影響について
佐藤宏(感性福祉研究所)
作業中に再生するBGMの再生方法が,作業効率や作業者の心理に与える影響を調べた。その結果,被験者の周囲に多数のスピーカを配置したモノラル再生が,一般的なステレオ再生などと比べ,作業効率を促進させる一方,被験者にはテストを難しく感じさせることが分かった。

——————-<休憩 14:25-14:40>——————-

11月24日(日) 14:40-15:05
ピアノ演奏における熟達者と非熟達者の演奏傾向の比較
◎高橋範行(京都市立芸術大学大学院音楽研究科)
大串健吾(京都市立芸術大学)
ピアノ演奏における熟達者と非熟達者の相違を調べるため,平易なピアノ曲を演奏曲として用い,その演奏から得られたMIDIデータをもとに演奏傾向の比較を行なった。

11月24日(日) 15:05-15:30
エンベロープパタンを異にする音系列の on-time と off-time の知覚について
◎宮嶋訓生,桑野園子(大阪大学)
難波精一郎(宝塚造形芸術大学)
音のon-time と off-time の主観的な長さは,必ずしも物理的な長さと一致しない。本研究では,エンベロープパタンが異なる音について,on-time と off-timeの主観的な長さについて実験的に検討し,聴覚の動特性と関連づけて考察する。

11月24日(日) 15:30-15:55
規則的なパルス列のリズム感におよぼす妨害音の効果
◎刈谷亜未太(大阪大学)
青野正二(大阪大学)
桑野園子(大阪大学)
難波精一郎(宝塚造形芸術大学)
一定間隔で繰り返されるパルス列を聴取した後,再生実験をおこない,妨害音の影響について検討する。妨害音の時間的要因,レベル,規則性などについてその影響を調べ,リズム感と関連づけて考察する。

——————-<休憩 15:55-16:10>——————-

11月24日(日) 16:10-16:35
和声法教示の工学的実現~禁則と美しさの教示~
◎三浦雅展(同志社大院)
柳田益造(同志社大・工)
和声法の教示は,禁則と呼ばれる調性音楽内の最低限の美しさを規定する規則群の教示過程と,禁則の制約内で音楽的な美しさを追求する過程とに分けられる.本報告ではそれぞれの教示過程の工学的実現可能性について検討している.

11月24日(日) 16:35-17:00
バス課題許容解の局所的特徴に基づく音楽美評価
久保雅彦(同志社大院)
三浦雅展(同志社大院)
柳田益造(同志社大・工)
和声法における実習の基本であるバス課題を題材とし,その許容解に対する感覚的な美しさに対して,時間的に区切られた部分的な音列の連結として全体の評価を予測することができるかどうかを調査している.

——————-<終了>——————-