2005年度春季研究発表会プログラム(詳細版)

-------------------------------------
日本音楽知覚認知学会平成17年度春季研究発表会プログラム
○印は発表者,◎印は研究選奨受賞の有資格者を表す.
(発表20分+質疑応答8分+入れ替え2分)

5月21日(土)

<12:30~14:30>  座長:安達真由美

[1] ソロ課題とデュエット課題におけるリズムパターンに対する反応タイミング
    ○金子 弘美(日本大学大学院)、野口 薫(日本大学大学院)

    複数の演奏者が合奏する場合、演奏者はどのようなてがかりを利用してタイ
    ミングをはかっているのだろうか?本実験ではごくシンプルなリズムパター
    ンを提示して2名の実験参加者に反応させた.その結果、合奏時には体制化
    された音の知覚(特にstream segregation) が重要であるとの結果を得た.


[2] メロディの認識におけるワーキングメモリの役割の検討
    ○柴玲子(東京電機大学先端工学研究所)、國分博光(東京電機大学情報環
    境学部)、根本幾(東京電機大学先端工学研究所、東京電機大学情報環境学
    部)

    本研究ではメロディを認識する際のワーキングメモリの関わりについて、メ
    ロディを記憶する課題遂行時の脳活動をMEG計測することにより検討した。
    その結果、右半球の聴覚野周辺・頭頂葉・前頭葉・前頭前野に特異的な活動
    が観察された。この内容について詳しく報告する。


[3] 視聴覚刺激に対する同期タッピング課題におけるクロスモーダルな誘引効果
    (2): 刺激呈示間隔の影響
    ○菅野禎盛(九州産業大学経営学部)

    時間的なずれを含み一定間隔で繰り返し呈示される視聴覚刺激に対し、一方
    のモダリティに同期してタッピングを行わせる実験を行った。実験の結果、
    IOIが500 msの条件で1500 msの条件よりも視覚刺激に対する聴覚刺激の強い
    誘引効果が見られた。

[4] 即興演奏による感情コミュニケーションにおけるテンポの効果-ピアノ単音
    による即興演奏の場合-
    ◎生駒 忍 (筑波大学)、三鈷 泰代 (筑波大学)、斎藤 あゆみ (筑波大
    学)、秋山 果林 (筑波大学)

    「喜び」「悲しみ」などの感情をピアノの単音のみによる即興演奏で表現し
    たものを聴取させ,演奏された感情の判断を求めた。テンポを元の演奏と変
    えることにより判断成績が影響を受けており,テンポが演奏から感情を読み
    取る手がかりの一つであることが示された。


<14:45~16:45>  座長:菅野禎盛

[5] リズムパターンに対する嗜好
    ◎豊島久美子(大阪大学大学院人間科学研究科)、桑野園子(大阪大学大学院
    人間科学研究科)、福井 一(奈良教育大学)

    本研究の目的は、異なるリズムパターンが人間の心理状態に与える影響を、
    心理学的側面から明らかにすることである。実験では、聴取者の嗜好によっ
    て選出した打楽器音を用い、複数の異なるリズムパターンに対する聴取者の
    嗜好を調査した。

[6] 2純音合成音の音色変化について
    ◎三戸勇気(日本大学大学院芸術学研究科)、浜野勝((株)アトラス)、
    川上央(日本大学芸術学部)、大蔵康義(日本大学芸術学部)

    本研究では複合音を構成する成分音のうちの2音を組み合わせ、そのうちの1
    音の出力をさまざまに変化させた合成音を音色の変化として認識できるか検
    討した。その結果、基音から第16倍音までのほぼすべての組み合わせで約
    5dBの差があれば音色変化を認識できることがわかった。また音色変化が認
    識できる最低限の出力変化は倍音の組み合わせによってばらつきがあること
    がわかった。

[7] 音色的明るさを用いて短い旋律の音楽的明るさを定量化するちょっと無謀な試み
    ◎鈴木碧,益田昇,山田真司(金沢工業大学)

    音楽の明るさは,長調/短調,テンポ,音域などによって変化するがこれら
    の定量的関係は明らかではない。一方,音色的な明るさはスペクトル重心で
    定量的に表される。本研究では,ERB-rate(臨界帯域幅が1となるように変
    換した周波数軸)上でのスペクトル重心を尺度として,何種類かの音階と短
    い旋律の「明るさ」を布置させた。その結果,長調と短調の違いは5ERB分の
    重心移動に相当し,テンポを倍にするとは2.5ERBの重心上昇に相当すること
    が分かった。


[8] 和音進行における各和音の転回型に対する和声法上の制約に関する主観的適
    切性について
    ◎江村 伯夫(同志社大 工学部),三浦 雅展(龍谷大 理工学部),
  柳田 益造(同志社大 工学部)

    本研究では,和声法によって記された「音楽的美しさ」が,人の審美感に基
    づいたものであるかを実験的に検証することを目的とし,和音進行中の特定
    の和音が音楽美の観点からはどのような転回型に聴こえるべきかを調べる知
    覚実験を行っている.

<17:00-17:45> 総会・表彰式

<17:45-18:25> 湯浅先生公演会
  湯浅先生によるお話と電子音楽(昔のテープ作品)の上演会を行う予定です。
湯浅先生のプロフィールについては下記をご覧ください。

----------------------
【湯浅譲二(作曲家)】

1929年福島県郡山市生まれ。
49年慶応大学医学部教養課程に入学。在学中より秋山邦晴、武満 徹らと親交
を結び、51年「実験工房」に参加、作曲に専念する。
以来、オーケストラ、室内楽、合唱、劇場用音楽、インターメディア、電子音
楽、コンピュータ音楽など、幅広い作曲活動を行っており、国内はもとより、
世界の主要オーケストラ、フェスティバルなどから多数の委嘱を受けている。
81年からカリフォルニア大学サン・ディエゴ校教授(現在名誉教授)を務め、
現在東京音楽大学客員教授、日本大学客員教授を務めている。
1997年<ヴァイオリン協奏曲>により第28回サントリー音楽賞を受賞。
1998年より武満徹の後任として、「サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ」
のアーティスティック・ディレクターを務めている。

<主な受賞歴>
1961年 ベルリン映画祭審査員特別賞<TV「日本の美・佛」>
1966年 イタリア賞<コメット・イケヤ>
1967年 イタリア賞<愛と修羅>
1967年 サン・マルコ金獅子賞<記録映画「母たち」>
1973年 第21回尾高賞<クロノプラスティック>
1987年 第36回尾高賞<啓かれた時>
1995年 飛騨古川音楽大賞
1997年 1996年度第28回サントリー音楽賞<ヴァイオリン協奏曲> 
1999年 日本芸術院賞
2000年 第23回日本アカデミー賞映画音楽優秀賞受賞<映画「梟の城」>
2003年 第51回尾高賞<内触覚的宇宙第5番-オーケストラのための->
----------------------

<18:40-20:40> 懇親会


5月22日(日)

<9:00-10:30>  座長:川上央

[9] 高齢者をとりまく音楽環境についての考察-童謡・唱歌の歌唱による活性化
    のためにー
    ○佐々木 實(音環境システム研究所・九州芸工大名誉教授)

    ある特別養護老人ホームにおいて高齢者(70-100才超)を対象とした歌唱指
    導を行っている。これは心身の活性化のためには幼少期に親しんだ童謡・唱
    歌を歌うことが有効であるとの知見に基づいており、週1回宛実施している。
    効果は 1.姿勢が良くなる、2.大きな声を出すようになる、3.表情が明るく
    なる、などで判断している。

[10] パーキンソン病患者の歩行障害に対する音楽療法:PETによるリズム認知研
     究とともに
     ○佐藤正之(三重聖十字病院)

     パーキンソン病患者の歩行障害に対し歌唱を用いた音楽療法を行い,効果
     を定性的・定量的に評価した.また訓練効果のメカニズムをPETによるリズ
     ム認知の実験結果から考察した.

[11] 歌いかけプログラムによる母子コミュニケーションの向上
     ○田本早知子(長崎純心大学大学院人間文化研究科人間文化専攻)、中田
     隆行(長崎純心大学人文学部児童保育学科)

     1歳未満の乳児と母親が集団での歌や遊びを中心とした歌いかけプログラム
     に参加した。プログラム前後に行った対乳児発話の解析と母性愛着尺度か
     ら、母親の対乳児歌唱と育児に対する楽しみが増加したことが明らかになっ
     た。

<10:45-12:15>  座長:山崎晃男

[12] 自動車内のウインカー報知音にとって望ましい音響特性
     ◎崔 鍾大(九州芸術工科大学), 山内 勝也(九州大学), 高田 正幸(九
     州大学), 岩宮 眞一郎(九州大学)

     ウインカー報知音は,自動車に必ずなくてはいけない機能の一つであり,
     最も頻繁に使われているサイン音である。本研究では,実際の自動車には
     すべて搭載されているウインカー報知音を対象とし,その機能イメージに
     相応しい音であるかどうかなどを検討するために,印象評定実験を行って
     いる。


[13] トイレ用擬音装置(音姫など)に関する意識調査
     ◎植田 美和子(九州大学芸術工学府)、岩宮 眞一郎(九州大学芸術工
     学研究院)

     「音姫」をはじめとするトイレ用擬音装置は、近年、女性用公共トイレを
     中心に普及してきている。本研究では、装置の知名度、使用の有無、必要
     性及び擬似音の種類などについて意識調査を行い、その結果を考察した。

[14] テロップの字形と効果音の意味的調和
     ◎金基弘(九州大学大学院芸術工学府)、藤丸紗由美(九州芸術工科大学
     音響設計学科)、岩宮眞一郎(九州大学)

     本研究は、マルチメディア環境においてテロップの字形にどのような効果
     音を組み合わせれば効果的であり、かつ調和感のある視聴覚情報になるの
     かを音と映像の意味的調和の概念を用いて検討したものである。


<13:15-15:15>  座長:谷口高士

[15] 異なる表現形式を介しての感情伝達
     ○山崎晃男(大阪樟蔭女子大学人間科学部)、米田恵理(城山台保育園)

     絵画と音楽という異なる表現形式を介した感情伝達をテーマとして、感情
     を線画によって表現する描画実験、描かれた線画から意図された感情を読
     み取る判断実験、描かれた線画を見て感じたことをドラムによって即興的
     に表現する演奏実験を行った。

[16] 音楽の構成要素が感情に与える影響~SD法を応用した分析
     ◎島野 玲(日本大学大学院芸術学研究科),川上 央(日本大学芸術学部),
     松本 洸(日本大学大学院芸術学研究科),大蔵 康義(日本大学大学院芸術
     学研究科)

     メロディや和声などの音楽の各構成要素と感情表現語の関連性について検
     討をした結果、各構成要素が音楽全体の4因子に特徴的な影響を与えている
     ことが分かった(島野ら,2005)。本研究ではそれらのデータをもとに、構
     成要素が音楽全体にどのように依存しているかを分析する。

[17] 楽曲の感情的性格と聴き手に生じる感情
     ○星野悦子(上野学園大学 音楽・文化学部)

     Is it possible to make a distinction empirically between emotion
     perception (to perceive emotional characters of music) and emotion
     induction (listeners' emotional response to music)?  Thirty
     students majoring in music were asked to listen to phrases from two
     orchestral pieces. Half of them were instructed to choose an
     emotional category which fitted the phrase as emotional character,
     while the other half chose the emotion aroused by the phrase, from
     twelve categories of emotion.  The results showed that, while it
     was hardly possible to discriminate between what characters those
     phrases had and what emotions they aroused, there were some
     differences between the two kinds of "music emotion".

[18] 知りながら知らないと信じ入ることによって生じる音楽の意味と情動(その3)
  -J. ポップスにおける“サビ”のimplication-realization processとその反復
     聴取による情動-
     ○村尾忠廣(愛知教育大学)

     「知りながら知らないと信じ入ることによって生じる音楽の情動」
     (L.B.Meyer)の理論は,Jackendoffによって30年後に注目され,そして批判
     されたのだが,この批判に関して筆者は過去2度にわたって再反論を展開
     してきた。昨年のICMPCエヴァンストン大会では,このジャッケンドフ批判
     から10年を経て実験的にこの問題を検証しようとする研究が発表された。
     本論,これらについての筆者の論証である。


<15:20-15:30> 特別賞・表彰式
------------------------------------